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JRCA登録者インタビュー

「もっと能動的にISO9001を使いこなす」 を追求し続ける

2024年2月22日
NECプラットフォームズ株式会社
CS品質推進本部
品質推進統括部
品質推進部
部長 井内 秀明 様




NECプラットフォームズの井内様は、2017年1月にJRCA審査員資格を取得し、現在は品質推進部の部長として、同社のTQMやQMS推進、品質教育等の業務に携わっています。
本日は、同社品質推進部門の中核である高津事業所を訪問し、井内様の審査員活動や、同社でのQMS推進活動についてお話を伺いました。
井内様が大切にしていることは、「組織の成果につながるようにPDCAを確実に回し、目的意識と高い視座を持ち、幅広い視野で行動していくことが大切である」というお話を伺うことができました。

<審査員登録を行ったきっかけ>

JRCA: JRCA審査員に登録されたきっかけを教えてください
井内: 私は、ISO9001の他、ISO/TS16949(当時)やISO13485などのセクタ規格の認証取得の事務局業務を経験してきました。それらの審査対応の際、審査員の着眼点、視野の広さや知識の深さを目の当たりにして、私も審査員資格の取得に挑戦しようと考えました。また、長年品質やQMSに関わる業務に携わってきた証として審査員資格を取得したいと考えました。

JRCA: 審査員資格を保有している価値やメリットはどんなことでしょうか
井内: 審査員(第三者)の視点で、俯瞰的にそして客観的に社内のQMSを見渡せるようになったことです。
QMSに関するアプローチの幅も広くなることで、社内での教育講師やISO9001認証取得のための指導など、業務の幅も広がりました。
また、「JRCA登録の審査員」であることで、私個人に対する社内外での信頼度も上がったと感じています。審査員資格を得るというのは、品質部門でQMSに携わってきた者のひとつの「節目」であると思っています。

JRCA: 「現在の審査員活動についてお聞かせください
井内: 第三者としての審査活動は行っていません。社内のQMS推進活動や、教育講師、関連会社のISO9001認証取得のための指導などを行っています。

JRCA: QMSを推進する中で重視されている点はありますでしょうか
井内: 1994年版当時のISO9001の規格を知っている方の中には、やらされ感的なネガティブなイメージを持たれている方も少なからずいるかと思います。
しかし、ISO9001:2015の“序文 0.1一般”には、「QMSの採用は組織の戦略上の決定である」と記述されており、私たち自身がもっと能動的にISO9001を使いこなしていかなければなりません。
これを浸透させていくことが重要であると思っています。

JRCA: 「能動的に使いこなす」ということを詳しく説明頂けますか
井内: 第三者審査のスタイルも、「組織が計画した目標に対してどのような成果を出しているのか」「成果が出ていないのであればPDCAをきちんと回しているのか」といった視点になっています。
以前の規格は、文書化や記録を残すことが最重要なポイントとして求められていたイメージがありますが、現在の規格はそこに重きをおくことから変わってきています。
一方で、「審査のために」とか「審査で説明を求められたら困るから」という理由で文書や記録に残したいと考える人は依然存在します。
その際、私は「意味のない文書や記録の作成は止めましょう。
審査の際の説明のことは横に置き、まずはその文書や記録の目的を確認し、業務遂行上、本当に必要かどうかを考えてください」と言い続けています。
これは、私自身が審査員資格を持っているからこそ、第三者の審査員と同じ視点になることができるのだと思っています。

JRCA: お話を伺っているとQMS推進者というよりは、むしろ伝道師的な役割ですね
井内: 規格の求める意図や本質をどう伝えられるかが重要だと思っています。
例えば、内部監査実施前にオリエンテーションを行うのですが、その際に「監査のため、審査のための業務を行っていないか」も内部監査で確認するよう伝えています。
もちろん、規格要求事項に適合させることは前提にあります。
単に監査や審査対応のための文書作成や記録を残すといった無駄な作業はISO9001の規格要求事項が意図する本質ではないからです。
新規の事業でISO9001の認証範囲拡大を行った際、その部門にお願いしたのは、「現在のISO9001規格は昔のISO9001規格と異なります。
現在の規格は、組織としていかに意図した成果を出すかがポイントで、もし計画した成果が出ていないのであれば、なぜ計画通りの成果が出ないのかを分析、評価、是正し、PDCAを回して継続的に改善していくことが重要です」と説明しています。
これも私自身が経験してきたことや審査員資格を取得することで学んだ考えだと思っています。

JRCA: 自分たちの業務の一部にISO9001を組み込むということですね
井内: 一昔前の第三者審査の対応では、改善指摘事項や改善の機会の「件数(絶対数)」を気にするトップマネジメントやQMS事務局も多かったかと思います。
しかし、現在は、認証機関からいかに有益な改善の機会を出してもらうか、その改善の機会をトリガーにして、会社をより良くしていこう、改善していこうというのが第三者審査のメリットだと思っています。

<NECプラットフォームズ社のQMS活動>

JRCA: ここで井内さんが所属されているNECプラットフォームズ社について、少しお話をお伺いしたいと思います。
NECプラットフォームズ社は、どのような事業を行っているのでしょうか
井内: NECプラットフォームズは、1918年に前身の会社が設立されて以来、100年以上にわたりICTプラットフォームの先進テクノロジーを具現化する会社として、お客さまが求める製品・サービス・ソリューションを提供し続けてきました。
2017年には、NECグループのハードウェア開発生産機能を結集し、「グローバル One Factory 体制」を担う会社としてNECプラットフォームズを発足しています。
(従業員数:約7,000名)
(NECプラットフォームズHP https://www.necplatforms.co.jp/


JRCA: :ISO9001は、いつ頃から取り組まれたのですか
井内: 弊社のISO9001の取得は1992年8月で、国内での認証取得はかなり早い方だと思います。
また、2017年4月にNECグループのハードウェア開発及び生産機能が統合(4社・3部門の再編・統合)されたことに伴い、1年後の2018年に、旧各社が保有していた5つのISO9001認証を1つに統合しました。

JRCA: 5つの認証統合となると、プロセスもそれぞれ異なる中、どの様な工夫をされたのですか
井内: 認証統合にあたっては、どこの事業部、拠点でも同じ基準、同じやり方で仕事ができるようにすることをコンセプトに、QMSを再編成しました。方針管理や内部監査、マネジメントレビュー、是正処置、文書・記録管理などの「ガバナンスプロセス」は全社統一しました。
一方で、受注・契約、設計・開発、製造、保守などの「実務プロセス」は、共通部分と製品特性に応じたプロセスに区分し、さらに、製品カテゴリ別にQMSを設定することで、将来の組織改定にも柔軟に対応できる、組織に依存しないQMSを整備してきました。
しかしながら、当社の目指す理想形には至っていないので、継続的に改善を進めています(図参照)。

<内部監査での工夫>

JRCA: :審査員資格の話に戻りますが、資格をどのように活かしているのでしょうか
井内: 一例として、内部監査があります。弊社では内部監査員の養成を社内教育で行っており、社員約7,000名のうち、現在、約800名を内部監査員として資格認定しています。
毎年約100名の入れ替わり(新規、引退)があります。
養成教育では、座学(ISO9001規格解説や当社のQMSなど)や模擬監査(ロールプレイ)を行っていますが、その際の講師はJRCA審査員補以上の有資格者、またはその有資格者が教育を行い認定した者と定めており、社内教育講師の能力の拠り所としています。

JRCA: 内部監査員育成では模擬監査(ロールプレイ)も行っているのですね
井内: はい、監査場面を想定した教育を行っています。
監査場面にキーワードを仕込み、それをもとに模擬監査を実施する方法です。
例えば、調達部門を被監査部門に想定したロールプレイでは、「調達部門では、海外との取引があるため英語の力量が必要となる。
監査員は、教育履歴を確認したところ、調達部門の部員は英会話教育を受講していたが、その受講者の教育アンケート結果(有意義な教育であった)をもって力量があると判断していた。」という監査場面を設定し、被監査部門と監査員の立場に分かれて議論してもらいます。力量とは何か、有効性評価はどのように行うべきか(教育受講≠英会話できる)などを考えてもらっています。

JRCA: かなり本格的ですね
井内: 内部監査員として、単に規格要求事項だけを理解しただけでは不十分です。
規格の意図や監査方法、内部監査員としての立ち振る舞いを含めた力量を身につけるために、審査員研修コースと同様に教育を行い、監査をより有効なものにしています。
教育の最も重要なポイントは、内部監査を通じて会社をより良くしていこうというマインドを持ってもらうことだと考えています。

JRCA: 他に内部監査で工夫している点はありますか
井内: 内部監査がより効果的で事業に直結した有益な監査になるように、監査終了時に内部監査プロセスの有効性レビューを実施しています。
レビューでは、改善の機会の傾向や監査員のアンケート結果を分析し、社内の監査員が第三者認証機関の審査員と同様の視点で監査できるようになることを目標に、監査方法と監査員の育成の両面でPDCAを回しながら継続的に改善を進めています。

JRCA: もう少し具体的に説明してもらえますか
井内: 通常であれば監査結果の改善の機会は、検出数を絶対数で評価することが多いと思いますが、私たちは比率で示すようにしています。
監査結果を絶対数で評価すると、部門ごとの検出数の比較が行われ、改善の機会の検出数がネガティブに捉えられてしまい、組織全体が次回の監査で改善の機会の検出数を減らしていこうという思考になってしまうことを危惧しています。
さらに、私たちは内部監査の質を認証機関による審査と同じレベルにすることを目指しています。
文書や記録の管理等の改善の機会は、明確な基準で判断できるため比較的指摘しやすく、そのような支援プロセスの改善の機会が多く検出される傾向にあります。
一方で品質目標や設計・開発、製造などの実務プロセスにおける有効性に関する改善の機会は、監査員の力量や経験に依存する部分も多く検出割合も低くなりがちです。
内部監査員に対する再教育や重点監査項目の設定の工夫、また監査チェックシートにタートル図の要素を含めるなど様々なアプローチを行っています。
実務プロセスと支援プロセスの改善の機会の検出比率も、内部監査プロセスの有効性の評価基準の一つにしています(図参照)。

JRCA: 全社の監査結果を取りまとめる上での課題はありませんか
井内: 組織が大きいため、全ての監査の結果をまとめるのに時間がかかり、水平展開にも時間を要しています。
文字情報を集約して要約することにパワーと時間がかかるため、最近では一部のまとめに「NECグループで社内向けに提供されている生成AIサービス」を使用しています。
また、水平展開の場面では、多くの改善の機会の中から何を水平展開するのかが課題となっています。
そこで、製品品質に直結するような内容であるかの重要度と、軽微でも検出頻度が多い改善の機会を分類し、重要度と頻度の積を点数化するリスク評価の考え方を取り入れて、重点指向で水平展開しています。

JRCA: また御社は、ISO9001以外に、車載、航空宇宙、医療と様々なセクタ規格の品質マネジメントシステムを認証取得されています。
工夫している点が有ればお聞かせください
井内: 各種セクタ規格も「ISO/IEC専門業務用指針補足指針Annex SL」に従った構成になっているため、骨格となるISO9001のQMS部分は全社品質マニュアルで規定し、セクタ規格固有の要求事項は全社品質マニュアルの内容に付加する形で構成しています。
ガバナンスプロセスは全社で共通化できていますので、方針管理や内部監査、力量管理、文書・記録管理、是正処置などは共通プロセスとして、効果的で効率的なQMSの運用を行っています。

JRCA: 近年のコロナ禍では、QMSを維持するためにご苦労があったと思います。
特に貴社の場合、サイトが全国各所に点在していますが、どのような工夫を行っているのでしょうか
井内: 弊社は幸いにも、コロナ禍前にテレワーク(リモート)の環境が整っていましたので大きな混乱はありませんでした。
例えば、内部監査では計画時に「ISO19011の遠隔監査に関する指針」を参考に、遠隔監査におけるリスクを徹底的に洗い出し準備を進めたことにより、被監査部門 約100部門に対して混乱もなく計画通り監査を実施することができました。
生産拠点は出社対応になっていましたので、万全の感染対策を施した上で監査を実施しました。
リモート対応をする場合は、生産現場の様子はビデオを通じて確認するようにしましたが、やはり監査の原則は、現地・現物で、現場の「におい」や「雰囲気」など、現場で様々なことを感じながら監査を実施することが重要なのですが、コロナ禍の感染対策の制約がある中でできることを考えて遠隔監査におけるダンドリや監査の着眼点など監査員に説明し、コロナ禍での監査を実施してきました。一方で、遠隔監査により監査員の移動の制約がなくなり、全国の各拠点に在籍している監査員がどこの部門の監査でも対応可能になるなど、新たな監査スタイルが定着したことはプラスになっています。
現在は、リモート監査と現地監査のハイブリッド形式で内部監査を実施しています。
昨今のコロナ対応はまさにISO9001の「6.1 リスク及び機会への取組み」の一つだと考えています。

JRCA: 社内の品質に関心のある人材を育成するための工夫や取り組みがあればお聞かせください
井内: 社内の品質教育として、現在、20科目程度の教育を展開していますが、特に基礎教育に注力しています。
業務遂行していく上で基本となる、QC的なものの見方や考え方、品質に関する原理原則、品質マインドなど教育を繰り返し実施しています。
昨今のコロナ対応により、教育はオンラインで開催、またはeラーニングとすることで、全国のどこの拠点からでも好きな時間に必要な教育を受講できる体制にしています。
また、最近の取り組みとして、各組織における困りごとや、これから実現したいことなどのニーズを調査し、シーズ(社内で保有している教育コンテンツ)とニーズとのマッチングや、新たな教育コンテンツ開発の検討しながら、教育計画を立案しています。

<今後に向けて>

JRCA: 最後に井内様ご自身の審査員の能力維持向上の取り組みや今後についてお話を伺いたいと思います。
井内様が2017年にJRCAの審査員資格を取得されて6年程経過しました。
現在ご自身が審査員資格の能力を維持・拡大するためにどのような取り組みを行っていますでしょうか
井内: ここ数年では、品質管理に関するシンポジウムに積極的に参加しています。
異業種の企業の方や大学の先生方との顧客価値創造や組織内能力向上などに関する意見交換や議論を通じて、視座を高く視野を広く知識を深められるようになりました。
また、社外の方々との人的ネットワークも広げられるよう努めています。

JRCA: 審査員になって良かったと感じる点はありますか
井内: 各種QMSの活動や能力維持向上の活動を行い、また第三者の視点で客観的にものごとを見渡せるようになったことです。
QMSや品質推進に留まらず、組織(会社)として、また市場や社会に対する視座が高くなり、視野も広がってきていると感じています。
今まで狭義に捉えていた品質をさらに広義な品質として捉えられるようになってきました。

JRCA: 広義の品質とはどのようなことでしょうか
井内: ISO9000 「3.6.2 品質」では、品質とは「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義されています。
品質の要素はQCD(Quality、Cost、Delivery)の全てであり、さらに顧客満足の達成のために、お客様が認識していないニーズも捉えていくことの必要性を感じています。
また、ISO9001 「9.1.2 顧客満足」の要求事項に対して、これまでは規格要求事項に沿った狭義のCS(カスタマ・サティスファクション)の視点しかありませんでした。
今後はCS(カスタマ・サクセス)やカスタマ・デライト、さらにはステークホルダーのエンゲージメント向上や社会貢献へと範囲が広がります。
そして、QMSを通じて何ができるのかという自らの視点も変化してきていることを感じています。

JRCA: 将来、井内様が審査員能力の維持向上に向けて取り組みたい事やチャレンジしてみたいことは、有りますか
井内: 近年、生成AIが指数関数的に進化しており、いずれシンギュラリティが訪れ、AIがQMSを管理し、さらにはAIが審査や内部監査を実施する時代が訪れるのではないかと想像しています。
また、近い将来には生成AIのバリデーションなどもISO9001の要求事項に含まれてくるのではないかと思っています。
先ほどお話ししたように、「NECグループで社内向けに提供されている生成AIサービスを活用し、第三者審査や内部監査の報告書のまとめや改善の機会、監査員のアンケート結果まとめの分析などに使用しています。
今後も積極的に生成AIの活用領域を広げていきたいと考えています。

JRCA: AIの活用ですか。さすがに先進的ですね
井内: 品質管理の底流に有る、三現主義やプロセスアプローチ、標準化、PDCAなどの普遍的な「不易」の部分は堅持しつつ継続的改善を重ね、一方、社会や市場、お客さまの価値観の変化、また生成AIなどの技術進化の「流行」の部分は、波に乗り遅れないよう感度を高めてしっかりキャッチアップし、様々な変化や進化にも柔軟に適応していきたいと考えています。この「不易流行」の考えのもとで全社の品質推進を進めていきます。 組織として、そして個人としても、取得した審査員資格や今まで培ってきた知識や経験をもとに、さらに成長し、お客さまの価値創造や社会貢献ができるような活動を行っていきたいと考えています。

JRCA: 本日はありがとうございました。
インタビュー日:2023年12月15日