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JRCA登録者インタビュー

感謝される監査を目指す(前編)

2024年5月23日
富士通株式会社
CS総務本部 環境統括部 環境経営推進部
マネージャー 高井 康晴 様
Japanリージョン
ソーシャルシステム事業本部 コンストラクション事業部
マネージャー 佐藤 美由紀 様

富士通㈱の高井様は、2010年2月にJRCA審査員資格を取得し、現在は主任審査員として、富士通グループの環境内部監査全体でのとりまとめ役としてご活躍されています。
また、佐藤様は、2022年8月にJRCA審査員資格を取得し、同じく富士通グループの環境内部監査員の一員として活動されています。
本日は、「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」を訪問し、高井様、佐藤様に富士通グループのサステナビリティ経営や内部監査活動についてお話を伺いました。
前編では主に、富士通グループ様での、経営と環境マネジメントシステムとの関わりについてお伺いしています。
 佐藤マネージャー       高井マネージャー 

<富士通グループでのEMS活動について>

JRCA: 本日はお忙しいところ、ありがとうございます。先ずは、簡単に自己紹介をお願いします
高井: 私は、元来ものづくりが好きで、1994年にグループ会社の工場に入社し、製造現場での生産革新・改善活動を担当していました。その後、総務部門に異動し、環境マネジメントシステムの事務局として勤務しました。2013年からは、富士通本体の環境部門に異動となり、グループ全社の環境マネジメントシステム総括事務局を担当しています。EMSへの関わりは、15年以上となります。
佐藤: 私は、2019年に富士通にキャリア入社し、現在はコンストラクション事業部門に配属され、富士通グループの工事事業に係わる法令順守に関連した業務を担当しています。前職で環境マネジメントシステムの事務局を経験していたこともあり、JRCA審査員資格を取得し、内部監査に参加しています。

JRCA: 佐藤様が内部監査に参加するきっかけはどのようなことでしょうか
佐藤: 高井さんが私の所属している部門に内部監査に来られたのがきっかけです。内部監査の際に、前職での環境監査事務局としての経験を高井さんに話したところ、内部監査員へのお誘いを頂き、審査員資格を取得しました。
高井: 毎年、国内外の多くの組織に環境監査に出かけていくのですが、監査を進めていくと佐藤さんの様に、将来、EMSの中で監査員として活躍してほしいと思う方が何人かいます。そのような方には積極的に声をかけ、EMSのレベルアップへの協力をお願いしています。
佐藤: 私自身も、JRCAの審査員資格に登録することで、今まで培ってきた経験が見える形になるので是非資格取得したいという思いがありました。

JRCA: それでは現在のEMS活動についてお伺いします
高井: 現在は、環境内部監査の事務局も兼務し、富士通グループ全社のEMSを総括している立場です。定例の監査は年1回行っていますが、他に法規制への抵触や緊急事態などインシデント発生時に臨時で監査を行うケースもあります。
現在、環境内部監査員は約40名が登録しています。その内、JRCA審査員として登録しているのは約20名です。退職や人事異動の影響もあり、主任審査員が2名、審査員が2名、残りは審査員補としての登録ですが、順次審査員への昇格を計画しています。
過去に、ISO 14001認証をグループ全体で取得しEMSを新規構築した時期には、監査員がグループ全体で100名以上いた時期もありますが、監査自体のレベルが上がってきたことと、監査計画の合理化を進めたこともあり、現在は40名程度の人数で活動を続けています。ただし、正直なところ監査員の高齢化が課題となっていますので、体制維持のために今後も新規養成教育を継続していきます。
佐藤: EMS業務は、主に内部監査員としての参加です。内部監査は、年3~5サイトを監査しています。現在所属しているコンストラクション事業部門の仕事との両立となりますが、本務の繁忙期には、監査チーム編成のアサインから外して頂いていますのでそれほど負担感は有りません。
内部監査では、実査に入る前の準備が大変です。事前に被監査組織に適用される法律や活動状況は確認し、事前準備を行いますが、過去に自分が使用したことがない設備であった場合には、どこに注意しなければならないか見落としが無い様に気を遣います。1サイトあたりの準備は、2~3日程度はかかります。また、法律も頻繁に改正されるので、必ず年1回の社内教育を受けています。監査員は被監査組織以上に知識を習得する必要があり、説得力をもってやる点は苦労しています。

JRCA: 内部監査に参加する際に上司の方のご理解は、いかがでしょうか
佐藤: 上司からは「是非行って来たら良い」と言われています。やはり自組織だけの取り組みだけですと、組織の成長が止まってしまう危惧があり、監査を通じて、グループ会社や富士通本体の他の事業部門の活動を是非吸収したい、という思いがあります。また、環境と密接にかかわる安全衛生面での取り組みについても、他部門での対応状況も知っておきたいということもあります。

<富士通グループのサステナビリティ経営について>

JRCA: 富士通グループが推進されているサステナビリティ経営への取り組みについて少しお話をお伺いしたいと思います
高井: 2018年にCSR基本方針の下に、持続的な成長に向けて解決すべき重要課題「マテリアリティ」を特定していましたが、2023年5月にサステナビリティを事業成長の中核とするため、ビジネスを通じたお客様、社会への価値提供という観点を取り入れた「経営におけるマテリアリティ」に更新しました。今後、全社レベルでの取り組みを推進し、経営における重要なリスクの低減・回避と事業機会の拡大を図り、富士通グループの企業価値向上と、「地球環境問題の解決」、「デジタル社会の発展」、「人々のウェルビーイングの向上」においてネットポジティブの実現に貢献していきます(図1参照)。
この中で、EMSについては、特に「地球環境問題の解決」に繋げており、3つのグローバルリスクである「気候変動」、「資源循環」、「自然共生」を新たに富士通グループ全社の共通目標として掲げ、環境行動計画も刷新しています。
また、設定した第11期 富士通グループ環境行動計画では、「気候変動」、「資源循環」、「自然共生」のそれぞれに対し、具体的にKPIを設定し、現在グループ全体で取り組みを推進しています。

JRCA: 今、各企業が苦労されているのは気候変動対応と思われますが、いかがでしょうか
高井: 気候変動でもスコープ1,2,3とあり、その中にもカテゴリーがいくつかあります。
それぞれのサイト(事業拠点)では、空調リプレースや照明LED化などサイト運営においてCO2を主としたGHG排出量の半減に取り組んでいます。
一方で、課題の一つとなっているのがスコープ2の再生可能エネルギー起因電力の導入です。2025年度には50%以上の導入を計画していますが、それを調達し使用エネルギーを転換する際には、非化石証書の購入などでコストがかかってきますので、各サイトには、計画的に無理のない範囲で優先順位をつけてお願いしています。また、自社だけでなくサプライチェーン全体で排出量削減に取り組む必要がありますので、取引先やお客様にも「CO2削減に協力してほしい」と継続して働きかけをしています。

JRCA: 一つの部門がすべて行う活動ではなく、サプライチェーン全体に係わるあらゆる部門が連携して取り組まれているということですか
高井: 例えば、トラックや鉄道、航空機などロジスティクス(物流)におけるゼロカーボン(CO2削減)も大きな取り組みの一つです。「調達から消費までの商品や物資を供給する活動領域」でロジスティクスの最適化を実現するオファリングを提供し、お客様の課題と社会課題を解決します(図2参照)。
全ての組織が環境行動計画全部の目標に関わりがあるわけではありませんので、関わりがある部門を「特定組織」として明確にしています。その特定組織は、目標達成に貢献するために個別にKPIを設定し、その達成状況を定期的に報告して頂くのが管理プロセスです。組織や期が変わるごとに設定する目標やKPIが変わってきますが、トップダウンで特定組織を決めて、進捗状況を報告してもらうという方法は過去から継続していますので、いまではほぼ定着しています。
また、マネジメントサイクルの3年というのも経営目標とリンクしています。従来は、環境行動計画として個別に適用年度を設定していましたが、各組織の事業そのものと合わせるために、中期計画や事業目標のサイクルと環境目標のサイクルを整合させています。環境マネジメントシステムをビジネスに直結させるため、環境行動計画に直接かかわりが無い組織の環境目標についても、極力事業目標をそのまま設定していただいています(図3参照)

JRCA: 環境行動計画で設定している環境目標で、「水使用の削減」が際立っていた印象があります
高井: 国内ではあまり意識されませんが、グローバルで見ると、水セキュリティ、水資源の確保というのは最重要課題になります。富士通グループでは環境行動計画をグローバルで展開していますので、特に海外拠点での水資源の確保、水の使用量削減というところは重要ですし、ダウ・ジョーンズ(サステナビリティ・インデックス)(注1)やCDP(注2)等の外部評価にも影響します。富士通グループのサステナビリティ経営が外部からも高い評価を得るためには、これらの目標というのは重要になってきます。その結果、CDPのサプライヤー・エンゲージメント・リーダーに選定され、「気候変動対策」だけではなく、「水セキュリティ」でも最高評価Aを獲得しています。地道な活動が外部からも評価、表彰されているということは、各組織のモチベーションにもつながりますし、これは非常に良いニュースです。
注1: アメリカのダウ・ジョーンズ・インデックス社による株式指標で、企業の持続可能性(サステナビリティ)の観点から、各産業分野で上位10%が優れた企業として選出される。
注2: CDPは、英国の慈善団体が管理する非政府組織(NGO)であり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営。2000年の発足以来、グローバルな環境課題に関するエンゲージメント(働きかけ)の改善に努めている。日本では、2005年より活動。(CDPジャパンホームページから抜粋)

    後編では、富士通グループ様での環境内部監査活動について、紹介します。

インタビュー日:2024年2月8日