前編に引き続き、富士通㈱の高井様と佐藤様に、お話をお伺いします。 後編では、実際の富士通グループ様での環境内部監査への取り組み状況についてお伺いしています。 |
JRCA: | ここから監査活動についてお伺いします |
高井: |
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JRCA: | コロナ禍の監査は苦労されましたか |
高井: | コロナ禍の時は現地には行けず、全てリモートで監査していましたが、インタビューやドキュメントのチェックは特に問題ありません。ただし、施設周囲の状況や臭い、音、振動が確認できないので、肌感覚としてはやりづらいというのが本音です。しかし、ようやく2023年度から現地監査を復活しました。現地に行くことによって発見できる指摘やアドバイスが多くありますので、かなり実効性も上がってきています。 |
JRCA: | 「三現主義」ですね |
高井: | テナントオフィスと自社事業所とでは全然対象物が異なります。テナントオフィスについては現地に行く必要性が薄いため現在もリモートで監査を行いますが、自社の事業拠点や工場については、ファシリティ関係や法令に関わる確認事項がありますので、なるべく現地に行って監査を行います。特に、環境リスクの大きい拠点、様々な法令が適用され、設備を持っている拠点は、リモート監査より現地での監査の方がはるかに有効な環境監査ができます。現地に行くことによって、より広い視野で様々なポイントが見えてきますし、例えば、施設と施設との間を歩いている移動中でも、途中の排水溝の状況や油の浮き方を見ることができます。現在は環境リスクの大きいところは現地での監査、リスクの小さいオフィスなどはリモートでの監査という形で、ハイブリッドでメリハリをつけた環境監査を行っています。 |
JRCA: | 内部監査でのポイントはどこにあるでしょうか |
高井: |
私から監査員には「悪いところだけ指摘するのは止めましょう。むしろ業務改善につながるような良い点を多く吸い上げてそれを横展開し、グループ全体の底上げを図りましょう。」と促しています。今年度も、良い点を230件以上抽出していただきました。(図5参照)
![]() EMSレベルが向上してきた現在のフェーズでは、不適合や観察事項だけではなく、いかに良い点を吸い上げて横展開していくか、そこを意識するようにしています。例えば、監査を通じて、ドキュメントの効率的な管理や設備のオペレーションで良い工夫をしている部門があれば、他の組織にも紹介し可能な範囲で取り入れてもらっています。内部監査はこのような、「いかに業務改善につながるようなアドバイスをして、他組織の良い点を水平展開していくか」、「業務全般の観点で有効性を向上させ、EMSレベルアップにつなげるか」を見出すことが大きなメリットだと思っています。 |
JRCA: | MSの有効性に重点を置いた内部監査ですね |
高井: |
![]() また、私は観察報告書の所見では、先ず良かった点(良い点)を書き、次に指摘事項や改善の機会を書くというまとめ方をしています。所見を受け取った方も良い点が先に出てくると、改善を要する事項も前向きにとらえて頂けると考えています。そうすることで、EMS活動の”やらされ感”や”押し付け”も払拭されますし、特に現地の監査では、被監査組織の方々と対面で会話することで、必ず双方の納得性は向上します。 |
JRCA: | 「この人に内部監査に来てもらって助かった」とは大変良いお話ですね |
高井: |
私自身も以前に工場で業務していたころ、環境監査を受けた際に、これは絶対に必要だと押し付けられたり、揚げ足を取られたり、重箱の隅を突くような指摘は本当に嫌でした。正直に言うと、「もう環境監査は受けたくない、この監査員は二度と来てほしくない」と思ったこともあります。 特に法規制などの順守管理は厳格に監査しますが、行き過ぎると敬遠されますし、先ず自分自身が常に法令知識を習得しアップデートしていかなければなりません。また、環境監査の実施後は、指摘事項のフォローアップが大切だと考えています。 フォローアップ時には、有効なアドバイスを丁寧に伝えることによって、被監査組織からも感謝され、この監査員であればまた今後もぜひ来ていただきたいという気持ちにもつながると思っています。 |
JRCA: | フォローアップというと、前回の監査での指摘に対するものを考えていたのですが、その他にもフォローアップされているのでしょうか |
高井: |
監査の指摘事項を次回の監査でフォローアップは遅いケースが多く、監査実施時点で発見した軽微な事象については、その場で、過去に同様の事象が発生していないか確認しながらフォローアップしていきます。その際に、指摘事項以外でも対応の相談を受けるケースもあります。 また、環境監査は凡そ2~3人のチームで行いますが、チーム編成する時には必ず前回の監査に参加した人を1人以上はチームに入れるようにしています。こうすることで、前回から今回までの改善の状況を把握することが出来、毎年、繋がりを持った継続的な改善ができると考えています。 |
JRCA: | 内部監査員への教育はどの様に行っていますか |
高井: |
新しく環境内部監査員として登録予定の方には新規養成教育を行いますが、毎年実施する既存の監査員に対するフォローアップ教育に力を入れています。フォローアップ教育では、法改正など社内外の最新動向や前年度の監査で発見された指摘ポイントを反映し、毎回カリキュラムやテキストを改定しています。同じテキストではマンネリ化し監査員の受講意欲も湧きません。 また、毎年ではありませんが、現地教育も行っています。実際の工場で設備を現地で見ながら、確認すべきポイントや注意点を教育しています。現地教育では、テキストや座学では伝えきれない多くのことを習得できますので、貴重な機会ですね。 その他に、監査時にオブザーバとしての参加も認めており、色々な人の監査方法など良いところを学ぶというOJTもスキルアップにはとても有効です。 |
JRCA: | 環境経営に係わるトップマネジメントの意識はいかがですか | ||
高井: |
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![]() サステナビリティ経営委員会では、社内で「ピラー」と呼ぶ6つの柱(人権・多様性、ウェルビーイング、環境、コンプライアンス、サプライチェーン、コミュニティ)があり、その一つとして「環境」があります。環境単独で委員会開催ではなく、会社経営や事業経営といかに整合させていくかということが重要と考えています。また、環境活動の最高責任者として、執行役員 CSuO(チーフサステナビリティオフィサー;Chief Sustainability Officer)が環境経営責任者を担務しています。 この委員会を通じて社長に定期的に業務の状況や目標達成状況を報告し、コメントや指示をいただくというのを繰り返してやっています。 しかし、年2回程度の報告だけでは不充分であり、環境経営責任者に対しては毎月、業務報告を実施しています。また、環境行動計画の達成状況等は、必ず4半期ごとに報告します。いかにタイムリーにトップマネジメントに状況をインプットしていくか、そこで様々な指示を受け、PDCAを回していくことが重要です。 |
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JRCA: | トップマネジメントの環境に関する意識が高いですね | ||
高井: | 現在は、代表取締役社長がWBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)の理事を始めとする様々な団体の役員/理事を担務しており、富士通は、環境リーディング企業としてハードルの高い目標を設定し挑戦していくという意識はこのようなところにも現れています。そのため、EMSや環境活動は各組織の事業に直結し、延いては私たちの業績や評価にも影響するため、自ずと一人ひとりが本気で取り組むことに繋がります。また、結果的に社内外から高い評価を得ることでやりがいも出てきますし、評価を頂くことによってさらに上を目指そうというモチベーションになっています。 | ||
JRCA: | マネジメントレビューについてはいかがですか | ||
高井: |
EMSのマネジメントレビューは先ほどの環境経営推進体制の中で実施しています。一般的に、マネジメントレビューは形式的なものになりがちですが、私たちが意識しているのは、いかに経営トップと密にコミュニケーションしていくかです。マネジメントレビューだけではなく、業務報告など日常的にコミュニケーションを行うことを心がけるようにしています。 サステナビリティ経営委員会も、以前は業務報告がメインでしたが、最近は、質疑応答に多くの時間を取っており、その中で役員間の活発な意見交換が行われています。マネジメントレビューについても、単に報告して終わりということはなく、経営トップ(環境経営責任者)から多くの質問や指示等があり、質疑応答を通じて私たち総括事務局にとっても毎回勉強になります。 また、サステナビリティ経営委員会は現在、オンサイトとリモートのハイブリッドで開催しているため、希望すれば、一般社員でも聴講できるようにしています。そのおかげで、経営トップの考えや思いが直接社員一人ひとりの理解に繋がり、日常業務にも良い影響が出ています。 |
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JRCA: | まさに企業文化ですね | ||
高井: | 経営トップの方々に各組織の事業や日常業務へ関与していただき、私たちにとって身近な存在と感じるようになることで、EMS業務の目的が明確になり実効性も上がります。その結果、マネジメントシステムの運営においても、経営トップからの評価だけではなく、社内外から高い評価を得られると、やりがいにもつながりますので業務が非常に楽しいですね。 | ||
JRCA: | 内部監査活動で、次の世代に受け継ぎたいことは有りますか |
高井: |
監査活動においても、私は幹部社員として後任者や次世代の監査員への引き継ぎを常に意識しています。特に伝えたいことは、自分の強みや得意分野を活かしていくことの大切さです。監査項目の中で、自分の得意な領域で積極的に踏み込んだ監査をすると、楽しく感じられるようになります。環境監査を通じて、監査員からそのような前向きな意見があったときは、該当組織の監査チームに率先してアサインしています。また、監査員毎のスキルの可視化にも取り組んでいます。これは主観的な要素もあるため難しいのですが、監査経験やスキルをデータ化、可視化することで、監査チームが編成しやすくなり同じ監査時間でも有効性は必ず高まります。そうすることで、継続的な良い監査活動に繋がると考えています。 また、いまの監査プログラムや監査方法、サンプリングのやり方も必要に応じて変えていってほしいと考えています。私自身、従前の古い空気を変えたい思いがあったので、「業務改善につながるレクチャー」や「良い点をまず上げる」という監査に変えました。次の世代の方も、自分がやりたいこと、こうすべきだと思ったことは、遠慮せずに大胆に進めて欲しいですね。そうすることでパフォーマンスの向上に繋がりますし、むしろ現状で満足しないで欲しいという思いが有ります。今の環境監査がベストだとは考えていませんので、やりたいこと、変えたいことは遠慮なく改善してほしいし、それをさらにその次の世代へも受け継いでほしいと思います。 |
佐藤: |
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JRCA: | 審査員になってよかったと感じる点はありますか |
佐藤: | 社内の状況を幅広く知ることが出来るという点です。このようなメリットを感じられないまま監査を行っても十分な成果を得られませんし、パフォーマンスは上がらないと思います。環境内部監査にはこのようなメリットもあるので、監査に参加していることは楽しいです。 |
高井: | 法規制やコンプライアンスに関する件など、指摘すべきポイントはしっかり指摘をしますが、一方、改善の機会などは、改善につながらないと相手は受け入れてくれない場合があります。監査中に何かアドバイスして、「助かります。ありがとうございます。」と言っていただけるとうれしい気持ちになりますね。 |
佐藤: | また、組織によっては、ガチガチの管理を行っている部門があります。内部監査受査のために過剰な管理や準備を行っていることがよくあります。「前任者から引き継いで管理しているのですけれど、ここまで必要ですか」と問われた際に、適切な管理の方法をアドバイスすることで、「ああ良かった。これなら良いですね」と言われたこともあります。 |
高井: | 被監査組織は、それが必要だと思い込み時間をかけて準備しています。このドキュメントが本当に必要か、何に使用するのか、という観点ではなく、単に前任者から引き継いだから同じように管理している、という状況です。このような場合、「このドキュメントの目的は、この点にありますから、ここまでやっていれば十分ですよ」とコメントすると、被監査組織からも「それなら効率化できますし、自分の負担も軽くなります」という答えが返ってくることがあります。監査員からアドバイスをもらって、さらに改善が出来る、そこも内部監査のメリットの一つだと思います。 |
高井: | 一方で、その様なアドバイスをするには、自分自身のスキルアップも必要です。社外の関連研修等に参加したり、毎年多くの監査経験を積むことで、被監査組織の業種や業態に合ったマネジメントシステムのレベルの落としどころが見えてきます。そのような知識、経験に基づく環境監査をすると自信にもつながり、感謝されることも多くなります。 |
JRCA: | 佐藤さんは、「内部監査は楽しい」と仰っていましたが、その様子を見て、被監査側の方でも、監査に興味を持ってくれる方もいらっしゃるのではないでしょうか |
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高井: | 確かに、今年も実際に環境内部監査員に立候補してくれた方がいらっしゃいます。それらの方々には、新規養成教育を実施し、OJTを経て監査員として正式登録する予定です。 |
JRCA: | 本当に良い改善サイクルが回っていますね |
高井: | 私たち事務局側から一方的に監査員を任命するだけではなく、自発的に手を挙げていただくと本人のやる気も出てきます。それを受けて、新規または経験者それぞれスキルに見合った適切な教育を行い、正当で責任感のある監査員に養成することが我々のミッションだと思います。当然ですが、率先して前向きに行われた監査では、指摘件数や「良い点」の抽出件数が増えています。 |
JRCA: | 富士通全社として今後目指すべきサステナビリティ経営について教えていただけますか |
高井: | やはり、現状に満足したり、自己満足で終わってはいけないと思います。富士通グループの経営は「サステナビリティ(持続可能性)」ですので、富士通として持続的成長に貢献し、選ばれ続けていかないと意味がありません。選ばれ続ける企業になるためには当然、EMSや環境活動の内容のアップデートも必要ですし、また、今後も社外から高い評価や表彰を頂くことは、自分たちのサステナビリティ経営が評価された証となります。一回の評価だけではなく、継続して評価され続けるためには何が必要かを常に考えていきたいと思います。 |
JRCA: | 最後になりますが、富士通グループが取り組んでいるこのサステナビリティ経営を支えていくために、高井さん、佐藤さん目指していきたい方向性があればご教示ください |
高井: | 富士通グループが社外からどのように評価されているか、については、自分たちだけで考えていても視野が狭くなってしまいます。そこで、多くのヒントを得るために、私は社外の他業種の企業の方や他団体の方など、第三者の意見を積極的に聞くことが必要だと考えています。社内外への情報発信やコミュニケーションは今後も継続していきたいと思っています。 |
佐藤: | 富士通で課題になっていることは、社会的にも課題になっていることだと考えています。そのような点への解決策を考え、発信することで、社内の課題の解決というだけではなく、社会全体をより良い方向へ進めていくことができるのではないかと感じています。 |
JRCA: | 本日はご多忙の中ありがとうございました。 |