前編に引き続き、帝人㈱の石原様に、お話をお伺いします。 |
<グローバルで展開するサステナビリティ>
JRCA: | グローバルに展開していく中で、アメリカ、ヨーロッパ、日本とそれぞれ、サステナビリティの考え方やマネジメントシステムへの取り組みが異なるという事ですが、石原様の役割について教えてください。 |
石原: |
![]() 例えば「PL・QA監査」という監査を年に一回、我々事務局が行います。これは、「クレームが適切に対応されているか」、「計画通りきちんと上市されているか」「顧客にコンタクトしているタイミングは適切か」といった、よりパフォーマンス成果がでているかという視点です。 また、「ESH監査」も年に一回実施することが義務付けられています。ESH監査もやはり、事業本部としての環境・労働安全衛生のパフォーマンスが適切であるか否かの確認です。 監査の際、トップマネジメントに対しては、トップインタビューで事業課題について聞きますので、それぞれの課題に対して、「リスクとして見ているのか、それとも機会として見ているのか」、「そのための資源を投入しているか」「それは達成可能か否か」「どう進めていくか」ということを順次聞いていきます。 なお、コーポレート組織では、我々事業本部が行った監査結果を帝人グループ全体で問題が無いか横断的に確認しています。コーポレート組織は、この事業本部に大きな課題がないか、あるいはコーポレート組織として何か支援する必要があるかを確認します。コーポレート組織は、この確認結果が帝人グループ共通の課題なのか、あるいは各事業本部にとって個別の課題なのかを識別し、どのように対応するかを検討しています。 もう一つは、事業本部の委員会運営です。事業本部の中に、「ESH」、「PL・QA」および「コンプライアンス・リスクマネジメント」の三つの委員会があり、その中で半年に1回、事業本部の実績や課題をレビューして共有・討議しています。委員は事業本部の部長・部門長クラスであり、海外であれば社長か副社長クラスの人が出席しています。期末には、事業本部の1年間のレビュー、次年度方針・目標を議論する場としています。この委員会では、全体の運営を取り仕切るのが私の役割です。 |
<帝人グループでの監査体制>
JRCA: | 石原様が行っている監査をもう少し教えてください。 |
石原: |
私が監査を行う関連組織などでは、それぞれ、ISO9001などの第三者認証は受けていますので、その運用は各組織に委ねています。ただ、それだけではカバーできないような、新製品開発に関連するプロセスなどをISOのマネジメントシステムに付け加えて、それぞれの組織で運用をしています。私は、このマネジメントシステムが有効に機能しているか、という視点で監査をしています。例えば、ある工場での認証審査で不適合が毎年出ているような状況があれば、現地に行ってQAマネージャーなどと話をして、問題点を把握します。その上で、この問題点の解消のために、この組織のトップマネジメントと話をすることもあります。 帝人グループに新しく加わった会社には、そこまでするのか、と捉えられることもありますが、このような活動を通じて、帝人グループとしての考え方を浸透させています。 私は2017年に今の事業本部に配属されたので、まだ6~7年しか経っておらず、各組織での業務については、本当に細かくは分からないところもあります。ただ、様々な形でその現場を見たり、現場の話を聞いたり、そのパフォーマンスを見ることで、問題が起こりそうなところはだいたい分かってきます。そういう意味で、私が持つ技術的な知見に裏付けられた監査を行うこともできるかもしれません。 しかし、現在のポジションだと、現場の監査までを行うのは難しい状況です。また、できれば、私がそこまで行わなくても、各現場で帝人グループの考え方、仕組みに基づく運営をしてもらいたいと思っています。 特に海外の組織では、ボトムアップというよりはトップダウンという面が強いので、トップマネジメントをきちんと抑えなければなりません。トップがノーと言ったらNGとなるという経験もしています。トップマネジメントに理解してもらうためには、やはりトップマネジメントときちんと話をすることが必要です。また、私のレポートラインは事業本部長になりますが、事業本部長にもきちんと理解してもらった上でサポートしてもらっています。 |
<再発防止は大変重要>
石原: |
監査の中には、ある一定のクライテリアを超えてしまった労働災害や、環境事故、爆発、火災等については個別の案件に対して「特別監査」が事故災害の程度に応じて、事業本部もしくはコーポレート組織主体で行われています。この中で事業本部では是正対応部分の妥当性と有効性の確認をしています。 この特別監査を通じて感じることとして、是正対応は各拠点によってまちまちであるということです。きちんと是正対応を行っている工場では、特性要因図の書き方や、なぜなぜ分析の真の原因への掘り下げ方も、考えるべき点を考えて分析を行っています。しかし、そうでない場合は、担当への教育をお願いしたり、現地の担当と一緒になぜなぜ分析を行うこともあります。その際、私の役割としては、こちらから、「これをお願いします。こうしてください」というよりは、ローカルサイドから「現状でこういう問題が起こっているのであれば、やはりやらなければいけない」と言ってもらう雰囲気に持っていくことです。現地主導での活動が途切れないように監査の場を通じて引き出してあげることです。 教育については、なぜなぜ分析にしてもFMEAやFTA分析にしても現地の品質担当者が教育担当を介してQC手法を広げています。海外工場では、ここ数年品質保証部門のトップが音頭を取って、「問題解決力をもう少し強化しなければならない」ということで、トレーニングをしています。少なくとも「火消し」と本当の「問題解決」が違うこと、即ち「ファイヤーファイティング(消火活動)」と「プロブレム・ソルビング(問題解決)」との違いをきちっと理解させています。全員に教育するのは難しいので、先ずは一定階層レベルの人以上の人に教育をしている状況です。 |
JRCA: | グローバルに活動を進めていく中での気遣いが必要ということですね。 |
石原: |
![]() 事故が起こった際には、必要に応じ私自身も「なぜなぜ分析」を行います。但し、その分析結果を始めからは示しません。彼らが作ってきたものを見て、「これでは、足りないですよね」と言って、私が考えた分析結果を示してあげると相手の態度が全然違います。時には、やってみせるという事も必要です。しかし、これもやりすぎると相手から「そんなことはできません」あるいは「それはやらなくても、これ以上の事故起こりません」といった人もいますので、地域や相手のレベル・特性に合わせています。また、前述のように監査の際にトップの人と話をするのも大事です。また、現場に行った時にはできるだけマネージャークラスの現場の方と話すことを大切にしています。 |
<ベストプラクティスの共有>
JRCA: | 再発防止フォーマットはグローバル共通でしょうか |
石原: |
決まったフォーマットはありますが、それだけでは足りないので、そのフォーマットだけにならないように注意しています。この辺りは現地に任せています。 また、弊社では、水平展開を重要視しています。水平展開は、同じプロセスを持っている他工場では、絶対に行ってもらわなくてはなりません。そのために、対策した判断の根拠や対策による効果の見極めから標準化といった部分も特別監査では確認しています。 国内の場合、事故や災害が発生しても、最終報告書を書いた時点で対応はクローズします。しかし、現場はもっと頑張っていて、その後も、「まだ何か問題があるのではないか」という視点で、さらに改善を進めていくということを日常の中で行っており、クローズしたという段階からさらに改善を進めてくれます。 私の役割は、そのような現場での対応をきちっと拾いあげて、それを事業本部の中で水平展開することです。「通常はここで終わったけれども、さらにこういう改善を行っていた」とか、「これは多分、他のところにも使えるのではないか」と思った時は、本部ESH委員会等で報告します。また、品質保証では、四半期毎に行う「グローバルQAマネージャー会議」で、各マネージャーには、「改善のベストプラクティス」を報告してもらいます。 |
JRCA: | グローバルレベルの展開ですね |
石原: |
TAT社では「ESH大会」というカンファレンスを年に1回、開催しています。この大会は、現地の各工場のESHスタッフを集めて教育をしたり、情報共有をする場です。そこに我々も参加し、帝人グループのESH、サスナビリティに関する考え方や方針を、現地の工場のESHのスタッフに直接説明する機会をいただいています。 また、グローバルに情報共有するという意味では、事業本部のトップに近い人たちやTAT社の社長には毎月、事業本部全体のESH、PL・QA、コンプライアンス・リスクマネジメントの報告は聞いていただいています。 |
<OJT/OFF-JTの重要性>
JRCA: | ご所属されている品質保証・コンプライアンス部として、部下の方などの「力量」を上げていく取り組みについて教えて下さい。 |
石原: |
![]() OFF-JTとして、外部の講習で知識をきちんと学ぶと、専門的な話ができるようになります。例えば、海外のスタッフでは、PLやQAの専門の担当がいますので、専門用語が理解できないと、なかなかコミュニケーションが取れません。ですので、専門的なPLやQAの知識をしっかり吸収させるということはすごく重要となります。それをOJTだけで習得することは非常に難しいので、OFF-JTを積極的に取り入れて、定期的に外部の講習を受講させています。 OJTとしては、私が行う監査に私の部下にも同席してもらっています。 また、私自身も、3つのマネジメントシステム審査員資格を2021年に取得しましたが、審査員研修を受講する前と後とでは大きく違っています。例えば、不適合報告書の書き方や改善の機会の書き方などは、受講を通じて、相手に納得してもらえるような文章を書かなければならないことが理解できました。 また、内部監査でも、監査の場では話を理解したつもりでも、指摘事項として文書に書いてみると、「結局、何をやらなければならないのか」「何が問題なのか」となってしまうことがあります。監査で文書をきちんと書くというのは、OJTだけでの習得は難しいと感じています。 |
<グローバルに事業展開する中でのMSの重要性>
JRCA: | 現在3つのMS審査員資格をお持ちですが、それを活かして今後行っていきたいことをお聞かせください。 |
石原: | 今は組織に所属しているので、本当の意味での監査技術の習得は難しいと思っています。まずは、帝人グループの中で、事業本部の枠を越えて監査員として活躍する機会があれば良いと思っています。 |
JRCA: | マネジメントシステムに期待するところはありますか |
石原: |
新しく帝人グループに加わったグループ会社には、モノをつくっていくということに対する弊社としての重要な考え方を浸透させていく必要があります。もちろん、マネジメントシステムで全てを満たすことはできませんが、そのグループ会社のコアとなる仕組みとしてマネジメントシステムを活用して、しっかり回していくことが有効であると感じています。 特に、私どもの事業本部は、大部分が新しく買収した組織ですので、マネジメントシステムの重要性は高いと感じています。新たに加わったグループ会社に対しては、どのようにして帝人グループの考え方に納得して業務を行ってもらうか、というのがポイントです。ISOのマネジメントシステムで動くことが世間の標準である、ということを示しつつ、弊社としての考え方とマネジメントシステムとがうまく噛み合うと、帝人グループが目指す価値のお客様への提供につながってきます。 また、ISOの審査にも「経営者インタビュー」がありますが、経営者の方には「リスクと機会」や組織を取り巻く外部、内部の環境変化をきちんと理解してもらうことが大事だと思っています。このような、ISOのマネジメントシステムのエッセンス・思想をうまく引き出せれば、ISOのマネジメントシステムが形骸化することはないと思います。つまり、「我々自身がISOのマネジメントシステムをいかに走らせるか」ということに尽きると思います。 |
JRCA: | 本日は貴重なお話をありがとうございました。 |