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JRCA登録審査員座談会

― 第1回登録審査員座談会 ―
「組織での監査力の向上」
(その3)
2024年10月23日


5.審査員(監査員)の力量向上に向けて

戸部様
 審査員資格を取得して、ご自身としての力量向上をどの様に考えておられるのか、お伺いしたいと思います。

井上様
 内部監査では「聞き出す力」が必要だと思っています。第三者機関審査を受けた際、審査員の方に同行した際の経験から、「聞き出す力」と、聞き出した上で相手に納得してもらうという力が、自分には足りないと痛感していますので、内部監査の場面では「聞き出す力」を意識しています。

本田様
 私は、EMS審査員補の資格取得に加え、QMSの5日間研修を受講しました。この先、OHSMS審査員資格も取得したいと考えています。これらの審査員資格を取得することにより、会社の品質・環境・安全を全部自分の視点から見ることができますので、将来的にぜひチャレンジしたいと考えています。

木崎様
 社内のISMS運営自体はまだ4年目ですので、まだまだこれからという面もあります。これまでは、管理の強化を意識して、リスクを低減させていく活動をしてきましたが、これからはMSの効率化の観点で、提案やアイデアを出していけるようになりたいと思っております。
 ただ、管理の強化に関する提案は社内でも納得が得られやすいのですが、効率化に関する提案は、逆にリスクが増大してしまうのではないか、と捉えられてしまう可能性もあるので、規格の理解を進めると同時に、各部署での業務上のリスクに対する理解を深めることで、効率化に関する提案への納得を得られるようにしたいと思っています。

谷上様
 内部監査では、相手の方から「聞き出す」というより「教えてもらう」「(相手から)言ってもらう」ということが大事だと思っています。「この人に言ったら何かメリットがある」と思ってもらえれば、課題があった際に相談してもらえるので、「傾聴する」ということを含めた、ファシリテーション能力が内部監査の場面では重要だと思っています。

川島様
 以前、ISO事務局を担当していた時には、多くの回数の監査を行っていた時期もありますが、今は年1回程度です。その程度では、経験としては足りないと感じているので、監査経験を増やし、監査スキルを高めたいと考えています。外部審査員の方のアプローチを見ていると、真似できないレベルの審査員の方が多くいらっしゃることを確認しています。

谷上様
 外部審査員や規制当局の監査員のような方々は、内部監査とは視点が異なると思うのですが、内部監査を、そのような外部の方々のような視点で行うことは可能なのでしょうか?

戸部様
 行政として第三者の立場で行う監査と、社内の動きが全部わかった上で行う内部監査とでは、視点が違うと思います。内部監査では、内部の調整や心配事を第一に考えますが、第三者審査では、規格適合性という視点での審査となります。また、審査員は様々な企業の審査を通じて、起こりやすい不適合事例をある程度は知っているので、そのような視点の違いがあると思います。外部の視点で内部監査を実施するというのは、見方を変えれば、組織のお客様をはじめとする利害関係者の視点で評価するということに近いと思います。
 さて、今まではご自身の力量向上に関する話でしたが、例えば、皆様が内部監査に関する講習をされるとか、規格の説明会をされるといったような、内部監査を受ける方々の力量向上につながる試みは何か進められていますでしょうか。


木崎様
 弊社では、社内全体のISMSへの意識の底上げを目的として内部監査を行っているという点があります。その際、監査チームのリーダーは監査員資格を持っている方が担当しますが、その他の監査員は、各部門から選出していただいた方々となります。各部署から選出していただいた方は、まず2日間の研修を社内で受け、規格やISMSの理解と、内部監査でのチェックポイントを学んでもらいます。そのような監査員の方々が各部署にいることで、各部署の情報セキュリティの意識の向上につながっています。ISMS事務局以外の、ISMSを理解した方を増やして、社内のISMSへの意識の底上げを図るという取り組みをしています。特に、20代の若手の方には、実際に監査する時にもすごく力になっていただいていますし、このような取り組みは、今後も続けていくと、社内全体へもいい影響があるのではないかと思っています。

戸部様
 木崎さんが最初に仰っていた、監査側と被監査側は「会社の情報セキュリティを高めていこう」という同じ目標を持った仲間であるという考えのスタート地点といえる、よい取り組みですね。

川島様
 私が内部監査を行う時は、事前に作成したチェックシートを被監査部門に渡してしまう、という進め方をすることもあります。

戸部様
 その時は、被監査部門の方に、チェックシートを作成した背景やどのようなストーリーで監査するといったことも一緒に伝えられたりするのですか?

川島様
 内部監査で確認する順番などを予め被監査部門の方に伝えておいた方が監査も進めやすくなる、と考えた場合には、そのような進め方をすることもあります。

戸部様
 事前に監査側と被監査側とで確認項目を共有するというのは、お互いに納得の上で確認が進められるという点で、第三者審査にはない、内部監査ならではの良さですよね。とても良い進め方だと思います。

井上様
 力量向上という点では、木崎さんと同じ様に、事務局が主催する内部監査員養成講座を開いています。コロナ禍以前は2日間コースで開催していましたが、業務上、2日間連続して参加させるのは難しいという意見もあったため、内容を絞り、現在は1日の開催として、毎回20人程度が受講しています。この講座を通じて、内部監査員を増やしています。
 また、調達先での第二者監査も大事にしています。調達先での監査を行う監査員の条件の一つにQMSの内部監査員資格を設定しているので、内部監査員の資格がないと調達に関する業務を進められないということもあるのですが、調達先で学べることも沢山あり、また第二者監査の準備を通じて様々な気づきにもつながると考えています。

6.MSの効率化に向けた取り組み

戸部様
 先ほどの木崎さんの発言の中でもMSの効率化という話がありました。MSのスリム化、効率化に関して工夫されていることは何かありますか。

井上様
 マネジメントレビューを6ヶ月間隔で行っていますが、メリハリをつけるために、2回のうち1回は各部門が状況を報告するだけの場としました。
 報告も、問題発生が無い部門は簡単な報告に留め、問題が発生した部門や、想定と違った方向に進んでいる部門は、その対応も含めて報告する形にしています。

本田様
 現在、QMSを勉強し、EMSは既に経験しているので、今後、統合マネジメントシステムを進めていきたいと考えています。QMSに取り組む前は、MSの統合は簡単にできると考えていましたが、やはりハードルが高いと感じています。まずは力量管理から統合を進めていきたいと思っています。

木崎様
 私もMS統合は、将来的に考えるべき部分だと思っています。ISMSは、まず本社に適用し、その後、工場やグループ会社に広げるという順番で進めています。一方、QMSは既に工場のみで認証取得しています。ISMSの運用を開始した時は本社のみが対象でしたので、QMSの内部監査のバッティングはしませんでしたが、現在は工場などもISMSの適用範囲に含まれ、受審部門からすると、QMSでもISMSでも同じようなことを聞かれることが想定され、どう進めるべきか、社内で課題になっているところです。

谷上様
 EMSの場合、著しい環境側面を管理項目にしなければいけないということがあります。昔から継続してきた管理項目、例えば紙使用量の削減などといった重要性が低くなってきたような点は見直しが必要ですし、第三者の視点でアドバイスをすることが効率化につながると思っています。
 また、業務上の課題については、内部監査のチェック機能がきちんと働いていれば自然にあぶり出される筈ですが、チェック機能が弱いと改善は進みません。放っておいても業務が回るようにすることが一番の効率化ではありますが、それができないから、内部監査を継続することが必要だと考えています。

川島様
 私が所属する部門では、QMSを運用することは、規制への対応という意味で重要です。規制への対応という点では、開発プロセス、生産プロセスでも確実に対応しないとプロセス自体が止まってしまいます。そういう意味で、効率化を目指すという部分は少ないかもしれません。
 とはいえ、効率化という点では、内部監査をレベルアップすることが該当するかもしれません。規制当局からの指摘を全て洗いだして、全ての内部監査チームが、規制当局からの指摘を事前に共有することで、効率化につながると思っています。

7.今後の監査の方向性

戸部様
 それでは最後に、今後の監査や認証ビジネスがどうなるのかお伺いします。例えば、ICTを用いた監査・審査がコロナ禍を契機に普及しましたが、「意外と使える」という声と、一方で「やっぱり難しい」という声もあります。また、AIも発展している中、MSにはどのような影響があるとお考えでしょうか。

木崎様
 当初、「オンライン監査はできない」と思っていたのですが 、(現職場とは別の職場で)実際にオンライン監査を受けてみると、「オンラインでも対応できる」という感触に変わりました。在宅ワークがメインの会社も増えている中で、オンライン監査には場所の制約がありませんので、オンライン化を進めていくのも一つの方向であると捉えています。AIについては、チェックシートを生成AIに助けてもらいながら作っていくということも積極的に行っていきたいですね。

井上様
 QMSでは、現場での監査自体がなくなることはないと思います。これまでの経験では、審査を100%オンラインで行うことは難しいと感じていますが、オンライン審査が可能な審査項目は、置き換えられていく部分も多いのではないかと思います。一方で、審査項目も、事業継続性やイノベーションといったような要素と結合して、新しい観点の審査になるのかなと思っています。

戸部様
 私もオンライン審査を実施したことがあります。その審査で現場の審査を行った際、説明をしていただける方は事務所からオンラインで参加し、現場には私と案内してくださる方の2人で行ったのですが、冷蔵庫などに入ってしまうと、事務所で説明して下さっている方との接続が切れてしまいましたので、そういった点でオンライン審査の限界を感じました。
 一方、現場で確認したい場所を事前に写真で撮影していただくよう、審査組織に依頼し、老朽化した設備の写真を撮っていただいたことがありました。この写真は、設備の管理をしている部門での審査では当然、活用したのですが、トップインタビューの際にも、現場での状況を説明する際に活用したことがありました。トップの方は、現場での設備の老朽化の報告は受けていましたが、写真を見て、より的確に状況を把握できたと仰っていました。個別の部門だけでなく組織全体でも情報共有のきっかけとなったという点では、審査でのICTの活用という点でよかったと感じたことがあります。

川島様
 コロナ禍以降、監査の形が変わってきている点は感じています。工場に入るところからカメラで全部案内させるというオンライン監査も実施されました。一方で、監査の基本である「人が見て、エビデンスを確認していく」というスタイルは変わらない筈です。特に、医療関係が主体の組織では、対面で行う外部監査は変わらないだろうと思っています。

谷上様
 JRCAが審査員の力量を評価して、審査員のレベルを維持する活動が継続されていることで、社会全体として認証や監査のレベルが確保され、品質も担保されていると思っています。ICT化やAI化ができないところは当然、人が関わっているところですので、人の力量が向上していることを継続的に見ていくという点で、JRCAの役割は非常に重要ではないかと感じています。

本田様
 製造業なので、審査では、やはり現場は実際に見ていただく必要があると思っています。オンライン審査では見えない場所に不適合が内在している可能性があるので、やはり現場での審査が良いと考えています。また、認証審査の市場には、外資企業が数多く入ってきている中で、日本語だけの監査ではなくて、英語などの、バイリンガルの監査が増えていくと感じています。実際、IATF16949は、英語での監査が主体ですので審査側/受審側問わずその対応を進めていかないといけません。

戸部様
 物事の見方、手順・基準の決め方なども、働く人たちの考え方や生活の仕方なども影響してきますので、認証市場の国際化へも対応が必要になってきますね。

 最後になりますが、今回、ファシリテータとして議事進行をさせていただきました。本日の皆様の話を伺っている中で、MSの種類は違うかもしれないですが、MSを使う人たちが集まれば、それだけで今回の座談会の様に話がつながっていき、お互い学び合うことができることを実感しました。これは大変すばらしいことですので、第2回、3回とつながっていて欲しいと思います。本日はご協力いただき、どうもありがとうございました。


左から
本田様、井上様、戸部様、木崎様、川島様、谷上様

2024年7月1日 収録


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